「腎臓の数値が悪くなっています。食事に気をつけてください」
その一言を聞いた後、家に帰ってから検索した方がいるかもしれません。
「たんぱく質・カリウム・リン・塩分——全部制限?じゃあいったい何を食べればいいんだ」と途方に暮れて。食べることが楽しみだったのに、「もう好きなものが食べられない」という喪失感を感じながら。
または、夫や妻が「腎臓が悪い」と言われて、「今日の夕飯から何を作ればいいの?」と焦りながら検索した方もいるかもしれません。透析が始まって、「これからの食事はどうなるんだろう」と不安な方もいるでしょう。
薬剤師として腎クリニックで透析患者さんの調剤に携わってきました。「制限が多すぎて何も食べられない気がする」——その気持ちが、どれほど毎日の食卓を苦しくするか、現場で見てきました。
この記事では、「何を食べていいか」を中心に、できるだけ具体的にお伝えします。
まず知ってほしいこと:制限の程度はステージによって違う
腎臓病の食事制限で最初に知っておいてほしいのは、「全員が同じ制限ではない」ということです。
慢性腎臓病(CKD)はステージ1〜5に分かれており、ステージによって必要な制限の内容と強さが異なります。
| ステージ | 目安 | 特に気をつけること |
|---|---|---|
| CKD 1〜2(早期) | eGFR 60以上 | 塩分・適切なたんぱく質摂取 |
| CKD 3〜4(中等度〜高度) | eGFR 15〜59 | 塩分・たんぱく質・カリウム・リン |
| CKD 5(末期)・透析 | eGFR 15未満または透析中 | カリウム・リン・水分・塩分(特に厳密に) |
「今の自分はどのステージで、何を一番気をつければいいか」——まず主治医や管理栄養士に確認することが最初のステップです。全員が透析患者と同じ厳格な制限をする必要はありません。
腎臓病の食事制限——4つの理由
「なぜ制限するのか」を知っておくと、守りやすくなります。
| 制限する栄養素 | なぜ制限するのか |
|---|---|
| たんぱく質 | 代謝でできる老廃物(尿素窒素など)が腎臓の負担になるため |
| カリウム | 腎臓で排出できず血中に蓄積→高カリウム血症→不整脈・心停止の危険がある |
| リン | 血中リンが増えると骨・血管を傷め、かゆみや骨折の原因にもなる |
| 塩分(ナトリウム) | むくみ・高血圧・心臓への負担を増やす。透析患者では透析間の体重増加(水分蓄積)につながる |
患者さんが一番困っていたのは「塩分」でした
腎クリニックで透析患者さんの調剤をしていて、食事の悩みとして一番多く聞いたのは塩分のことでした。
「薄味に慣れない」「外食がほとんどできない」「家族と同じものが食べられない」——そんな声ばかりでした。
カリウムやリンは「この食品はNG」と比較的はっきりしています。でも塩分は「少しなら大丈夫かな」という曖昧さがある分、毎日の食卓でじわじわ増えてしまいがちです。透析患者さんの場合、塩分が増えると水分もたまり、透析間の体重増加につながります。その流れを、現場で何度も見てきました。
「何を食べていい?」——食品の目安
✅ 比較的食べやすい食品
- 白ごはん(玄米より白米のほうがリン・カリウムが少ない。腎臓病では白米がすすめられる)
- うどん・そうめん(つゆは薄めか少量に。腎臓病向きの主食として選びやすい)
- 卵(良質なたんぱく質源。1日1〜2個が目安。ゆで卵・卵焼きなど調理しやすい)
- りんご・なし・もも・スイカ(カリウムが比較的少ない果物)
- 春雨・くずきり・でんぷんめん(たんぱく質・カリウムが少ない。主食の一部に活用できる)
- 低たんぱく米・腎臓病用の治療食品(市販されている。たんぱく質を大幅に抑えられる)
⚠️ 量を控えたい食品
- 生野菜・果物の多量摂取(カリウムが多い):ほうれん草・トマト・じゃがいも・バナナ・メロン。調理の工夫でカリウムを減らせる(後述)
- 大豆・豆腐・納豆・肉・魚(たんぱく質・リンが多い):「禁止」ではなく量をコントロールして食べる
- 乳製品(リンが多い):牛乳・チーズ・ヨーグルト。量に注意する
- 加工食品・インスタント食品(塩分・リン酸塩添加物が多い):ハム・ウインナー・カップ麺・練り物
- 玄米・全粒粉パン(白米・白パンよりリン・カリウムが多い)
カリウムを減らす「茹でこぼし」テクニック
「野菜が食べられない」ではありません。調理の方法を変えることで、野菜を食卓に取り戻せます。カリウムは水に溶ける性質があるため、次の工夫で量を大幅に減らせます。
- 🥬 茹でこぼし:野菜を小さく切り、たっぷりのお湯で茹でる→茹で汁は捨てる。これを繰り返すとカリウムが20〜50%減る(野菜の種類・切り方・茹で時間による)
- 💧 水さらし:生で使う野菜(きゅうりなど)は水に30分以上さらしてから使う。カリウムが水に流れ出る
- 🔪 小さく切る:カリウムは表面から水に溶けるため、細かく切るほど茹でこぼしの効果が高まる
- 🍲 汁は飲まない:煮物・スープの汁にはカリウムが溶け出している。汁は残す習慣を
茹でこぼしをすると、ビタミンCなど水溶性ビタミンも一緒に流れ出ます。カリウム制限の程度と食事全体のバランスについては管理栄養士にご相談ください。
リンを減らすコツ——「リン酸塩」添加物に注意
リンで特に注意してほしいのが、加工食品に含まれる「リン酸塩」という食品添加物です。
ハム・ウインナー・カニカマ・練り物・インスタント食品などには、食品添加物として「リン酸塩」が使われています。天然食品のリンと違い、添加物のリン酸塩は腸での吸収率が高く(60〜100%)、同じ量でも体への影響が大きくなります。
- 加工食品を減らす:ハム・ウインナー→生肉・魚に替える(焼き魚・蒸し鶏など)
- 乳製品は量を決める:牛乳は1日100ml以内を目安にするケースが多い(主治医に確認を)
- リン吸着剤の服薬:透析患者はリン吸着剤という薬を食事と同時に服用するケースがある。食事のタイミングを守ることが大切
塩分を「楽に」減らす4つのコツ
薄くするだけが塩分制限ではありません。コツを使えば、満足感を保ちながら塩分を抑えられます。
- 🍋 酸味・香りを活用する:レモン・酢・ゆずをかけると、塩分が少なくても味を感じやすくなる
- 🍵 だしをきかせる:かつお・昆布のだしは塩分ゼロでも旨みが出る。だしで薄味をカバーする
- 🥄 「かける」より「つける」:しょうゆは小皿につけて食べるだけで使用量が半分以下に
- 🍜 外食では汁物を残す:ラーメンのスープ・みそ汁を飲まないだけで大幅に減塩できる
外食・コンビニでの選び方
外食やコンビニを完全に避ける必要はありません。選び方のポイントを押さえれば、外出先でも対応できます。
外食で比較的選びやすいメニュー
- 定食(ごはん・焼き魚・煮物):味噌汁は残す。醤油をかけすぎない
- うどん・そうめん(つゆ少なめ):麺類はリン・カリウムが少なめ。つゆは飲まない
- 親子丼・卵系の丼:たれは控えめに。カツ丼・天丼は揚げ物+高カロリーなので注意
コンビニで選ぶなら
- おにぎり(白米)+温泉卵や卵焼き
- うどん(つゆは半分残す)
- 蒸し鶏・ゆで卵(たんぱく質源として、量を守って)
- 避けたいもの:カップ麺(塩分・リン酸塩が多い)、ハム・ウインナー入りの商品、乳製品が多いもの
「毎日の栄養計算が大変」という方へ
腎臓病の食事は、たんぱく質・カリウム・リン・塩分を同時に管理しなければならず、自炊で毎日続けるのは本当に負担が大きい。透析患者さんを見ていて、「もっと楽に制限できる方法があれば」といつも感じていました。
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薬剤師からひとこと
「食べてはいけないものだらけ」と感じてしまうと、食事が苦痛になります。腎臓病の食事制限は「排除する食事」ではなく、「腎臓への負担を分散させる食事」と考えると、少し前向きに取り組めるかもしれません。
カリウムは茹でこぼしで減らせる。塩分は「かける」より「つける」で減らせる。完全に禁止するのではなく、工夫して付き合っていく——そういう視点で食事を見直してみてください。
一人で完璧にこなそうとしなくていいです。管理栄養士さんや薬局に気軽に相談しながら、続けられる方法を一緒に探してください。
監修者:槇由紀子(調剤・訪問薬剤師 / 薬局経営 / 薬剤師歴13年以上)
情報は執筆時点のものです(2026年5月)。食事療法については必ず担当医・管理栄養士にご相談ください。


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